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賃金は労働者にとって、生活の礎となるもっとも重要なもののひとつです。毎月の給料を念頭に、生活費やローンのやりくりを考えている人がほとんどなのですから、突然会社から現金でなく物品で賄うなどと言われれば、家計の目算はたちまち崩れてしまいます。
しかし実際には、会社の業績によって、給料や賞与の一部が自社の商品などの物品で支払われるというケースもあるのが現状です。
労働基準法を見てみると、第24条には「賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と規定されており、通貨払いが原則とされています。仮に労働者が同意した場合でも、基本的に現物支給は認められていません。
にもかかわらず、世間で景気悪化が囁かれるたびに「給料の一部を現物支給にすると言われた」「今年のボーナスは自社製品だった」という声が挙がるのはなぜなのでしょう。
この場合、法的に見て問題はないのでしょうか?
原則として認められていないはずの現物支給ですが、唯一の例外があります。 それは、会社(使用者)と労働組合の間であらかじめ労働協約が結ばれている場合です。
労働協約とは、会社が労働組合と締結する約束で、「労働組合」と「使用者」との間で書面を作成し、両当事者が署名又は記名押印することによってその効力を生ずるものです。
この労働協約によってあらかじめ賃金を現物とする可能性が容認されているとき、会社は経営状態や業績によって物品などを賃金の代わりとすることができます。
しかし逆に言えば労働協約によってのみ可能な方法ですので、労働組合を持っている企業でなければ現物給与はあり得ないということになります。
労働基準法によって賃金が原則として通貨払いとする旨が定められている理由は、通貨で支払うことによって労働者により確実に賃金が渡るようにするためです。物品や値引サービスなどが賃金として渡された場合、労働者はその物品を売却して現金化することはできますが、換金後の価格が適正である保証はないうえ、販売や転売の手間もかかります。万が一にも会社が余剰在庫や売れ残りなどを賃金の代わりにして支払った場合、労働者が大きな不利益を被ってしまうため、賃金は通貨払いが原則となっているのです。
このように、雇用主が一方的に宣言して賃金を物品に代えることは許されませんが、もし就業規則などに『賃金は現物で支払う場合がある』と明記されていれば、その会社は労働協約によって現物支給を認められているということになります。特に、自社の取り扱い製品を給与の一部とされやすい小売業や家電メーカーなどでは、労働協約にどういった内容が記載されているかあらかじめ確認しておくと良いでしょう。
そもそも「給与」と「給料」は、似ているようで厳密には違うものです。「給与」とは、さまざまな手当をはじめ、雇用主から受け取るすべてのお金のこと。一方「給料」は、給与から残業代やボーナスなどの各種手当を引いたお金、つまり基本給のことをさします。
このうち「給与」の方は必ずしも金銭で支払われるものばかりではなく、会社からの食事の提供や自社商品の割引販売など、現物給与という形で従業員が知らず知らずのうちに受け取っていることも少なくありません。
ただし、賃金の代わりに何で支払うかについては、法律で細かく決められています。給料は生活を支える根本となるものですから、支給される内容は従業員にとって通貨払いと同等の価値を有するものでなくてはなりません。国税庁のホームページで確認すると、次のようなものは現物支給の対象とはならないことが明示されています。
このように、給料の現物支給はあくまで例外的な措置といえます。企業の経営上、やむを得ず一時的に取り入れることもあるかもしれませんが、さまざまな制約の上で実施されるものですので、基本的なルールを守っていなければ雇用者側の法律違反ということになります。
事業主から言い渡された内容に疑問を感じた時にはうやむやにせず、会社や会社の労働組合に労働協約の有無をきちんと確認してみることが大切です。
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