キャリアという言葉は今ではさまざまな場面で使われています。「公務員のキャリア組、ノン・キャリア組」「自分のキャリア開発」「転職によるキャリア・アップ」「さまざまな職務経験を通じてキャリアを積む」「資格をとってキャリアを転換する」等々、毎日の会話の中でもよく使われるようになりました。
これらから共通して見えてくるキャリアの意味合いは「職歴を高める」「職歴の価値を増す」といったことではないでしょうか。自分の職業人生のレベルや価値を高めたいという気持ちが背後に見えます。
ところがキャリアという言葉自体は「職歴」という意味を中心にしながらも「生涯」という広い意味も含んだ言葉です。ですから言葉の定義に忠実な意味合いでキャリアを考えるということは、職歴と生涯の両者を念頭に置きながら考えるという目線が求められるということになるのです。
学校を卒業し会社に入って間もない頃は、上司から与えられた仕事をこなすのに精一杯です。しかし、こういう仕事をひとつづつこなしていくことが、キャリアを蓄積していくことであり、まず目の前の仕事を着実にクリアーしていくためにはどうするかということが、キャリアを考えるということとほぼ同義になります。
それが中堅社員になってきますと、単に与えられた仕事をどのようにしてこなすかということだけではキャリアを考えるには不十分です。もう少し広く、長い目線が必要です。このときの1つのキーワードは「自分自身の専門形成」です。
自分の役割をきちんと果たす過程で着実に専門形成をするにはどうするかということがキャリアを考える中心課題になってきます。まず目指すべきは「部内での第一人者」でしょう。各部門の中で「マーケティング戦略のことは山田君に聞け」「財務に関しては田中さんが一番頼りになる」「商品企画は佐藤さんに任せておけば安心だ」と言われるようになれば、かなり着実にキャリアを積んでいると言えるでしょう。そして、ここまで来れば次に目指すのは「社内での第一人者」です。
こうしてさらに経験を積んでいくと、やがて自分の視野もおのずと広がってきて、徐々に「社会」が視野に入ってきます。つまり「社内だけでなく、社会で通用する自分」が見え始めてくるということです。キャリアを考える目線も広く、長くなります。
この段階に到達すると、キーワードは「その道のプロフェッショナル」です。つまり、その仕事を通じて、世の中のどこでも活躍できるし、自分の生活基盤を自分で形成できるということです。
実はこのことは、大変難しいことです。まず多くのビジネスマンは社会のことを余りよく知りません。よその会社で自分と同じような仕事をしている人がどの程度のレベルなのか、あるいは自分は彼らと比べてどうなんだろうか、社内に目を奪われている限りこういうことは知り得ないのです。
概して日本のビジネスマンは世界が狭いといわれています。つまり人間関係の広がりが狭いということです。もっと社外の人との交流を増やさないと、自分の社会的な評価ができなくなり、従ってキャリアを考える目線が広がらずに、社内キャリアのことしか考えられなくなってしまうのです。
このあたりまではキャリア=職歴という目線です。しかし、さらに経験を重ねると、やがて人生と仕事の関係が見えてきます。
自分の人生にとって仕事とは何か、仕事を通じて何を得ようとしているのか、今の仕事を通じて人生の満足を得られるのか等々を考えるようになると、おのずとキャリアと人生を重ねて考えるようになり、どのように生きるかという目線と、どんな仕事をしてどんな能力を形成するのかという目線が重なってきます。