人間が成長するためには、人生の各ステージにおいてさまざまな課題を達成していかなければなりません。特に人生の節目、節目の課題を心理学では発達課題と呼びますが、これをうまくクリアーできないと、能力的、精神的な成長が阻害されるとも言われています。つまりより良い人生を生きるとは、より適切な人生の課題を発見し、それをタイムリーにクリアーしていくことが非常に重要なことなのです。生き方の上手な人は、課題の発見、設定の上手な人と言っても良いでしょう。
そして人生全体に関わる課題はともかくとしても、今後のキャリアの問題を考えるには、第一に仕事に関わる課題をクリアーする必要があります。それには職業の選択と仕事の選択に関わる課題の発見と設定をすることが重要です。
国語辞典には「職業とは生活を支える手段としての仕事」とあり「仕事とは体や頭を使ってしなければならないことをすること」とあります。つまり職業が仕事よりも狭い概念であることが分かります。従って仕事のことを先に考えると、大きな概念を先に考えることになるので、それらの仕事の中から生活の手段としての仕事を選択するということになります。ところが生活の手段を先に考えると、仕事の全てを先に考えることがないので、自分にとっての仕事の概念が小さいままに終始してしまいます。
本来のキャリアデザインは前者のような考え方をすることが望ましいと言えますが、現実的には後者のような発想の方法もあながち間違っているとは言えません。また前者は仕事を目的として考えるスタンスであり、後者は仕事を手段として考えるスタンスであるともいえます。このように、まず職業、仕事の概念を自分なりに考え、どちらの思考スタンスで職業、仕事の選択をするかを決めた上で、その具体的課題を検討して下さい。
次に重要なテーマは自己啓発です。キャリアをデザインすること自体が自分の変化、成長を意味するわけですから、キャリアデザイン自体が自己啓発計画を意味しても全くおかしいことはありません。キャリアプランが自己啓発計画であっても良いのです。
それは何かを勉強することかもしれないし、具体的には何か資格を取ることかもしれませんが、いずれにしても大切なことは、キャリアデザインにおいては自己啓発は目的ではなく、職業、仕事の選択手段に関わることだということです。
自分のキャリアを希望通りに開発していくためには自分にどんな職業、仕事の経験が必要なのか、どんな学習が必要なのか、どんな資格が必要なのかと考えることが、結果的に仕事に関わるキャリアデザインにつながっていきます。是非、職業、仕事の選択と自己啓発テーマの発見、設定はセットで考えてほしいと思います。
キャリアデザインは狭義には職業、仕事のデザイン(設計、プランニング)になりますが、それ以外にも、より大きな幾つかのテーマを考える必要があります。
そのテーマの筆頭は人間関係作りです。人は必ず何らかの社会、集団に属しながら生きています。その社会、集団の中でどのような人間関係を構築するかは、文字通り自分の人生、キャリアを考えるときには取り組まなければならない重要なテーマです。この機会に、どんな領域のどんな人との人間関係を構築するかを考えてみて下さい(もちろん、家族のことも忘れないように)。
次に自分の健康管理についての課題を考えることも重要です。どんなに良い仕事も、健康を損なってしまっては継続することはできません。好きな仕事、やりたい仕事をやり続けるためには、それを可能とする心身の健康を維持することが不可欠です。そのためには自分の食生活を始め、基本的な生活スタイルについても今のままで良いのか、考えてみて下さい。その上で必要な課題を設定して下さい。
そして最後に、自分の毎日の過ごし方、つまり時間の使い方に関して何か問題はないか考えてみて下さい。そして何か問題点が見つかれば、その解決のための課題を見つけて下さい。これはキャリアデザイン上も大変重要なテーマなので、第8章でも取り上げますが、ここでは課題の確認というスタンスで、ざっと自分の現在の時間の使い方に関して点検をしてみて下さい。