キャリアを考えることは自分の仕事を考えることであり、それが自己啓発を考えることにつながり、さらにそれが自分の存在価値という問題意識を生み出し、最後に自分の生き方という人生全体の問題に行き着くことになります。キャリアをデザインするということはそれだけ多岐にわたった課題を自己確認していくことに他なりません。いずれにしても、いろいろなことをしっかりと考えていかなければならないことは事実です。
人間がものを考えるとき、大別すると思考の方向は2方向あります。1つは「方法・手段思考」もう1つは「原因・本質思考」です。前者は「どのようにして」という方法・手段を考えるということです。後者は「なぜ、どうして」という物事の背景・原因や本質を考えるということです。
変化の激しい時代の中で、早く答えを見つけ出したり、早く成果を出すことを求められるような環境の中では、人は方法・手段思考を優先させざるを得ません。どうやったら答えが見つかるのか、どうしたら早く成果を出せるのか、私たちは何かにつけ方法・手段に関心が集中してしまいます。また私たちの周りを見回してもノウハウ、ハウツーの類の情報が氾濫しています。
しかし方法・手段思考だけでは人の思考は浅く薄っぺらになってしまいます。物事を深く考えることができなくなってしまいます。現代はそういう意味でも「思考の危機」にあるといっても良いかもしれません。
皆さんがこれから自分のキャリアを考えるためにさまざまな思考を通じて自己確認していくことが求められるわけですが、是非この2つの思考について忘れないでください。
方法・手段思考だけに偏ってしまうと「どうしたらキャリア・アップができるか」「どうしたらよい転職ができるか」「どうしたら専門性を高めることができるか」「どうしたら資格を取得できるか」という思考に引きずられ、挙句の果てが「どうしたら幸せになれるか」なんていう思考すら出てきてしまいます。
しかも世の中にはこのような方法・手段思考に対する答えとなると思われるノウハウ、ハウツーが氾濫しています。そうなると方法・手段思考とノウハウ、ハウツー獲得の繰り返しになってしまいます。そして、それがキャリア・アップにつながるのだという考えすら存在し、それはあながち全否定はできません。
しかし、もっと大切な思考は「自分は何をしたいのか」「自分の人生で大切なことは何か」「人生の目的は何か」といった答えを見出すことが難しい思考なのです。私の言う「自問自答」とは「どうするか」という方法・手段の自問自答ではなく、「何、何故」という自問自答なのです。
方法・手段思考ではなく原因・本質思考が必要な背景がもう一つあります。それは私たちがものを考えるときに参考になるたくさんのデータや情報に囲まれているということです。
キャリアに関しても、さまざまなノウハウ、ハウツー情報意外に、これからどんな職業がもてはやされるのか、この資格をとるとどんなメリットがあるのか、○○とはどんな内容の仕事なのか等々、世の中にはじつに多くの情報が存在します。また、インターネット等を通じてそれらの情報の入手が容易になっています。
こうして多くの情報の取り囲まれ、これらの情報を手掛かりにしてものを考えていくと、いつのまにか自分が考え、判断したのか、あるいは情報のままに判断したのか、分からなくなってしまうことがあります。情報を鵜呑みにすると後者の思考になりがちです。
原因・本質思考が大切なのは、それにより自分の中にデータや情報に対する価値判断基準が出来上がるということなのです。どの情報は自分にとって価値がある、どの情報は信頼できない、という情報の目利き力は原因・本質思考により培われるのです。
そして思考の到達点として、「自分はこう考える」という自分の主観的認識を明らかにし、「自分はこうするんだ」という自分の意思を明確化することが人間の思考において最も大切な事なのです。キャリアをデザインする場合も全く同様です。多くの情報を手掛かりにしながらも、最後は自分の認識と意思により決定することが必要なのです。