5人生の将来展望を描く
5.2 ビジュアル化の意味
(1)人は言語で考える
言うまでもないことですが、人はそれぞれの言語でモノを考えます。自分の将来やキャリアについて考えるときも言語を用いて考えます。「○○という職業につきたい」「○○になりたい」「○○をやってみたい」等々、いろいろな表現方法はあると思いますが、およそこのように言語を用いて考えます。
言語を用いて考えると、さまざまな概念を分離していくことになります。「○○になりたい」という人は「△△になりたい」という人とは違った願望を持っていることになります。しかし、もしかすると「○○と△△を混ぜたような自分になりたい」という人もいるかもしれません。
このとき、○○と△△は一般的に定義されているとし、その混合されたものは一般的に定義されていないとするならば「○○と△△を混ぜたような自分になりたい」という人は恐らく自分にもそのなりたいものが明確に概念規定できないということになってしまいます。
仮に○○と△△を混ぜたようなものが◇◇というように定義されているならば、「○○と△△を混ぜたような自分になりたい」という人は「◇◇になりたい」と言えば済むわけですから。
(2)将来展望は言語だけでは描ききれない
前回述べたように、予測ベースだろうが願望ベースだろうが、自分の将来を描く時に、間違いなく将来は未知のものであるがゆえに、本来、言語だけで明確に規定できるものではないのです。
将来の展望というのは多分にイメージに近いものなのです。「○○と△△を混ぜたような自分になりたい」という人はまさに自分の将来のイメージを語っているわけで、イメージは言語だけで明確に記述しきれるものではないのです。
ついでに言えば、イメージを始め、極めて抽象度の高い概念や、まだ明確に定義づけできないような仮説も言語だけで表現するのは極めて困難です。
それでは、そのようなものを表現する時に言語以外にどのような手段があるのでしょうか。
それは例えば絵画的な表現、あるいは矢印や線や記号等を用いた表現などが考えられます。これらは総じてビジュアル的な表現といわれます。つまり言語のように論理的に記述するのではなく、視覚的に表すことによってそのメッセージを伝えようとするための表現方法なのです。
(3)自分の将来をビジュアル的に表現する
例えば「○○と△△を混ぜたような自分になりたい」という人は、「○○と△△を混ぜた」という概念が一般的に存在していない限り、それを言語的に表現するのは極めて困難です。そこで線や記号や絵を用いて(必要があれば当然言葉も用いて)、自分の頭の中にあるイメージをできるだけそれに近い形で表現してみるのです。これは慣れるまではなかなか難しい仕事です。なぜなら基本的に人は言語で考えるものであり、絵や記号でモノを考えることをしないからです。
それでも自分がなりたいものが表現されるまで試行錯誤を重ねてみてください。やがて自分の頭の中のイメージが徐々に鮮明になり、それに従ってビジュアル的な表現が出来上がってくるはずです。つまりイメージにも種々あり、茫漠としたイメージのままではビジュアル的にも表現できないということなのです。ビジュアル化のプロセスは茫漠としたイメージを鮮明化させるプロセスでもあるのです。
ビジュアル的な表現ができたものは、文字通り視覚的に理解することができ、特に自分の将来の姿が視覚的に表現でき、それを自分がよく理解できたときには、自分の将来に対して、理屈を超えた共感を得ることができます。
言語的表現では理屈で理解することができるところで終わってしまうことが多いのですが、ビジュアル的な表現で共感を覚えることができれば、それに対する思い入れは格段に強いものになります。そして結果的にそれがイメージの実現性を高めるのです。