8タイムマネジメント
8.4 1日24時間、1年365日をどう生きるか
(1)「Here and Now」としての今
以前、キャリアデザインの研修中に、ある受講者からこんな質問がありました。「自分は毎日、一生懸命生きている。今、その時に幸せであることが大切で、将来のために今、我慢をしたり、辛く苦しい思いをするのはいやだ。こんな生き方は間違っているのか」という疑問でした。これは「今(あるいは今日)」という時間をどう捉えるのかという大変難しい問題です。
「今」には2つの側面があります。その瞬間、瞬間で完結し、あるいは閉じている今と、将来へ連綿と連なる時間の流れとしての今です。前者の「今」はよく「Here and Now」と言われ、今この場、この時を大切にするという発想につながります。この場、この時は二度とない時間なのだから代替するものはなく、だからこそその大切な機会を生かし自分にとっての最大幸福を追求しようとうことになります。
この発想に立つと、先の研修の受講者のように、今、目の前の幸せ、楽しみ、充実等を犠牲にしてでも、将来のために我慢をする、あるいは何か別なことをするということは良くない事だということになります。それよりも、今でなければ出来ないことを優先させるべきだということなのです。
この発想では、今は将来の目的達成のための手段ではなく、今その時がひとつの目的的に存在しているのです。ですから一瞬、一瞬を精一杯生きることが大切だということになります。ただし、けっして今あるいは今日を刹那的に生きることを良しとしているわけではありません。あくまでも「今」に全力投球をするというわけです。
(2)「明日のため」の今
それに対して、今(あるいは今日)は将来につながる時間であり、その時間をどのように過ごすかによって将来が変わってくる、従って、こうありたいという将来の姿を実現するためには、今という時間をどのように過ごすべきなのかという発想です。
今、目の前にある大切なこと、魅力的なことに目を奪われて、そのためだけに時間を使用するということを繰り返していると、結果的に将来のビジョンや目標を達成することが出来ないということになります。
この発想は、いわばより良い、より幸せな明日の実現のために今日という時間があるという発想です。毎日、毎日の明日へ向けての努力の積み重ねが、将来のビジョンの実現につながるということです。
さあ、皆さんはどちらの考えにより近いですか。これはどちらかが正しく、他方が間違っているということではありません。基本的には先に述べたように、「今」には2つの側面があるのですから、どちらかが正しいと決めつけるわけには行かないのです。
それでもどちらに近い発想を持つかによって、おのずと今あるいは今日という時間の使い方が変わってきます。そして今までの文章を読んでこられた方は気づいていると思いますが、私はどちらかというと(2)に近い発想です。そうでなければキャリアデザインという発想が無意味になってしまうからです。
(3)今日と明日をつなぐために
しかし、いずれにしても今日と明日は分断されているわけではありません。今日は今日のための時間でもあり、また明日のための時間でもあるのです。ですから、今日の幸せや充実の追求と明日のための努力をどのように統合するのかということがより良く「生きる」ということを真剣に考えるということになるのです。
そのためにはまず自分の将来に対するしっかりとした考えを持ち、自分にとって魅力的なビジョンを作り、それを実現することに喜びを感じるという構造を作ってほしいのです。この構造がしっかりとできている人は、自分にとって何が大切なのかということが明確になっているので、結果的に自分の価値判断基準も明確になっているはずです。そうなれば、今日という日にいろいろなことが起こっても、何を最優先すべきなのかという判断が的確に出来るはずです。
それさえ出来れば、「今」の持っている2面性に振り回されることはなくなります。つまり「今日と明日をつなぐために」は、自分の価値判断基準を明確にすることが一番なのです。是非、自分の価値判断基準を明確化させてください。それには今までずっとお話させていただいたキャリアデザインの全てのステップをしっかりと身につけていただくのが有効だと思います。そして、ここで勉強していただいたことは3年くらいは考え続けてください。そうすればやがて皆さんにとってこれからのキャリアをどう考えたらよいかが明らかになると思います。
さて、キャリアデザインをテーマに、いろいろなことを書いてきましたが、本節をもってこの連載も一度お休みをいただきます。長くお付き合いいただいた方には心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。