4キャリアに関わる「関係性」の分析
4.4 自分にとって最も価値ある「関係性」は?
(1)全ての「関係」が心地よいわけではない
人は親子、兄弟のような家族関係、さまざまな友人関係、師弟関係、上司部下関係等々の多くの関係の中で生きています。文字通り、人は1人では生きられないと言って過言ではありません。
問題は全ての関係が自分にとって心地よく、快適な関係ではないということです。中には大変煩わしい関係、重荷になっている関係もあるでしょう。
もちろん全ての関係が心地よく快適であるに越したことはありませんが、しかし快適でない、心地よくない関係が人を鍛え、育てるという側面があることも忘れてはいけません。
転職を繰り返す人の中には「職場の人間関係」が煩わしい、楽しくないといった理由をあげる人がいます。つまり「関係」が心地よく快適でないので、心地よい快適な「関係」を求めて転職を繰り返しているというわけです。
しかし自分にとって100%快適な人間関係などあるわけがないのです。快適でもなく心地よくもない関係の中に自分の弱点や問題点を見つけ、その不快適さをバネに成長をするというバイタリティがなければ、どこに転職していってもやがてまた快適でない職場の人間関係が原因となって次の職場を探すことになってしまうでしょう。
(2)人は人間関係の中でしか成長しない
人は本を読み、さまざまな体験を通じてでも成長していくことができます。しかし、仮にこのような行為を無人島で繰り返していたらどうなるでしょうか。恐らく独りよがりな、ゆがんだ成長をしていくに違いありません。確かにそれも人間としての成長と言えないこともありませんが。
しかし私がここで言う成長はこのようなものではありません。社会の中で適応と自己実現の両者を追及できるような成長を言っているのです。
このような社会性を視野に入れた成長は、さまざまな人間関係を通じてでしか実現しないのです。文字通り「人は人間関係の中でしか成長しない」のです。
その1つの根拠として「ジョハリの窓」という考え方を説明しましょう。これは縦軸が他者によるA「自分のことを知っている」B「自分のことを知らない」という軸と、自分によるC「自分のことを知っている」D「自分のことを知らない」という軸による2×2のマトリクスからできています。
A×Cは自分も他者も知っている自分(開かれた自分)、B×Cは自分は知っているが他者は知らない自分(隠された自分)、A×Dは他者は知っているが自分は知らない自分(気がつかない自分)、B×Dは自分も他者も知らない自分(未知の自分)を意味します。つまり自分の全ては自分が知っているわけではなく、他者しか知らない自分もある意というところにこの理論の中核があります。
そして人間としての成長とは、自分が自分の中の知らない部分を拡張し、合わせて他者の知っている自分の領域をも拡大することであるということを言っているのです。これこそ「人は人間関係の中でしか成長しない」つまり他者の力を借りながらの成長ということになるのです。
(3)そのような「関係性」をどう築くか
このような他者との関係性を築くには自分が変わらなければなりません。つまり、まず「B×Cの自分は知っているが他者は知らない自分」の領域を減少させるという自分からの働きかけ、次に「A×Dの他者は知っているが自分は知らない自分」に関して謙虚に耳を傾けるという自分からの対応が出発点になるのです。そして「開かれた自分」の領域を拡張していくことが全ての関係性を自分にとって意味のある関係に育て上げるためには不可欠なのです。
良好な関係性などそこらにころがっているものではありません。そこらに転がっていないものをただ求めて転職を繰り返すというような行動は、真の関係性を築き、自分が成長していくという路とまったく相容れない行動なのです。
1つの組織の中で、人間関係が原因となった不適応は、根本的な人間関係の持ち方を変えなければ、どこに行ってもつきまとってくることを忘れないでください。