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――御社は入社時に『会社の辞め方講座』を開催し、退職時には『転職支援制度』を設けています。なぜこうした人事制度を導入したのですか? |
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宋:まず、前提としてご理解いただきたいのは、「会社が個人の才能を永遠に活かし続けるなんて絶対にありえないこと」だということです。事業環境も、個人のライフスタイルも、時が経てば変化します。
私はこれで何度も痛い目に遭ってきました。採用時の面接で「できれば長く勤めてほしい」とお願いすると、みんな「はい!長く続けます!」なんて言うんですよ。ところが入社して1年も経過すると“寿退職”(笑)。そのたびガックリしました。
でも、あるとき私は「それは非難すべきことじゃない」と考えを改めたんです。本来、個人のライフスタイルが変化するのは、その人の自由のはず。いち民間企業が口を挟む問題ではないんですよ。そこで私は、たとえ社員が半年しか在籍しなくても、会社も個人もハッピーになれる制度を作り始めたのです。 |
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――しかし、なぜ入社時に『会社の辞め方講座』を開催するのですか? |
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宋:男と女が簡単に別れないのは、なぜだか分かりますか? それは、お金に困っているか、モテないから(笑)。別れる条件を作ってしまえば、すぐに別れてしまうんですよ。同様に、会社と個人がお互いハッピーになるといっても、仕組みと技術がなければ実現できません。その仕組みの1つが、この講座なんです。
講座では「入社も退職も、自分の目標に合わせ、自ら判断すべき」と教え、全社員にこのカルチャーを浸透させています。ですから、会社を辞めても「裏切り者」などと、後ろ指をさされることはありません。辞めても業務に問題が生じないよう、「仕事のプロセスを透明化する」「どんな仕事をしたか記録を取る」といったルールも教えています。すると仕事の“属人性”が少なくなり、誰が辞めても引継ぎが容易になります。この制度を作る前は、きっと辞めにくかったんでしょうね。辞める直前に退職を申し出る人もいました。辞めやすい環境を作った結果、社員も3カ月も前から、退職の意向を伝えてくれるようになったのです。 |
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――宋会長といえば著書『やっぱり変だよ日本の営業』や講演などで、“ニッポン的”なビジネス慣行や営業手法に対し、鋭い指摘をしていることでも知られています。ここはぜひ「ニッポンの転職」について、お考えを聞かせてください。まず質問したいのは、一般に中途採用は“経験者”を採用しようとします、この採用手法について、どのようなお考えをお持ちですか? |
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宋:経験よりも採用する側の「採用目的」が重要だと思います。私の場合、秘書と広報のポストには、経験者を一切採用しません。過去に経験者を採用しては、失敗を繰り返していたのです。あるとき私は「当社の広報担当者の一番大切な仕事とはなんだろう?」とじっくり考えました。そこで出た答えは「当社が必要としているのは、広報業務の専門知識ではなく、取材に来た人に誠意と礼儀を尽くし、取材しやすい環境を整えること」だったのです。
そこで私は「営業センス」のある人が、当社の広報にふさわしいと考えました。なぜなら営業経験者には、もてなしの心やコミュニケーション能力が備わっているからです。一方、広報業務には、文章力や緻密なチェック能力が欠かせません。この2つの条件を満たす人材は、「営業アシスタント」経験者ではないかと私は判断しました。その狙いは見事に的中しました。何も教えていないのに、いろんなアイデアを出して、前向きに仕事に取り組んでいるんですよ。 |
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――「年齢制限」を設定する会社が多いですよね。特にIT業界では「ITエンジニア35歳限界説」が通説とされています。それについては、どのようにお考えですか? |
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宋:まず、なぜ年齢制限するかというと、日本の年収相場が基本的に年功序列で定められているからなんです。年功で決まる給与の場合、35歳以降から年収が急激にアップします。「35歳限界説」も、要は35歳以下のエンジニアを安く雇いたいだけなんですよ。35歳を過ぎると能力が落ちるというのもウソ。確かに若い人は知識を吸収するスピードは早い。でもお客様の要望を仕様書にまとめる力などは弱いんです。こういう仕事は、経験を積んだ30代、できれば50代のほうが向いていると思います。 |
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――ほとんどの人が、イメージや待遇のいい会社に転職したがります。 |
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宋:気をつけてほしいのが、“いい会社”が“いい仕事”をさせてくれるとは限らないということです。
三流大学卒のパッとしない男が、いきなり天下の一流商社に入社して、海外駐在員にしてほしいといっても無理があります。もし入社できたとしても、資料整理の部署に回され、一日中倉庫でファイリングする毎日かもしれません。
一方、同じく三流大学卒のパッとしない男は、将来社長になりたいという夢を持っていました。彼はその夢に近づくため、社長の近くで仕事ができる、小さな会社をみつけしました。秘書として入社した彼は、3年で社長の仕事をマスターしました。
日本の転職活動の最大の欠点は、会社のことばかり調べようとして、自分自身のことを調べないこと。“女優”のそばに立っていても、“付き人”としてか、“ダンナ”として立っているかという問題ですよ。“付き人”なら、たまに女優と一緒に写真に納まり、親戚のおばさんに自慢できるかもしれない。だけど、ちっとも自分のためになりません。やっぱり“ダンナ”になりたいよね(笑)。自分にとって、どの転職先が一番メリットがあるか、真剣に考えるべきではないでしょうか。
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