―――ソースネクストと聞くとタイピングソフト「特打」のヒットなど、マーケティングに強い会社という印象があります。ところが松田社長はエンジニア出身だとか。
松田:学生時代からコンピュータに興味があり、海外を飛び回って働きたいと思いからIBMに入社しました。1年目は開発プロジェクトでプログラミングしたり、先輩の指示のもとで作業を行い、2年目からは自発的に動けるようになりました。当時は独立などまったく考えていませんでした。
―――どうして独立を考えるようになったのでしょうか?
松田:2年目の夏から海外出張するなど、外国人と仕事をする機会が増えました。彼らと話していると、転職や起業は当たり前のことで、私にも「どうして独立しないんだ?」と聞いてくるんです。その影響で自分の考え方が徐々に変化しました。
それ以来「自分の価値」に敏感になりました。例えばお客様が自分たちに仕事を発注したとき、それはIBMという看板を信用しているのか、松田という個人を信用してなのかを強く意識するようになりました。 ―――最終的に独立を決めた理由は?
松田:独立した理由は3つほどあります。独立した理由は3つほどあります。1つは、組織の中で、自分が思うように評価されるのは難しいな、と感じたこと。もう1つが、海外のソフトメーカーと仕事をしたとき、ソースコード(プログラムの設計図)が手元にないつらさを味わったこと。これがないために簡単なバグ1つ直すことができず、お客様に迷惑をかけてしまうケースがありました。「自分たちでソースコードを持ちたい!」。その思いが起業の原動力であり、社名にも込められています。
最後の決定打が、IBMの4年目にヘッドハンティングを受けたことです。海外企業が立ち上げる日本法人の支社長という話で、私も興味があったのですが、外資系企業の日本法人は部門マネジャー程度の位置付けなんです。「権限がなければ社員に全責任を負えない」とその話は断り、「それならば自分で会社を作ればいい」と思って起業したのです。
―――ヘッドハンティングを受けたということは、エンジニアとしても実力が認められたということです。当時、スキルアップのために心がけていたことは?
松田:とにかく分からないことは、すべてなくそうとしていました。SEという仕事には、サーバーや通信、ハードウェアなど膨大な知識が必要ですが、すべてを覚えるのはとても大変なことなんです。それで多くのSEは、大型汎用機のことは詳しくても、パソコンのことは分からないといった人が多い。それでも私は分からないことがあれば、都度、自分で調べ吸収していました。
SEは医師に似ています。担当医師でないと患者の病状が分からないように、担当SEでないとお客様のシステムのことは分りません。それだけSEは責任の重い仕事なのですが、私はお客様にご迷惑を掛けたくなかったので、必死で知識を習得していました。 ―――独立について不安はありませんでしたか?
松田:むしろ不安よりも、何事も自分で決めて行動できるメリットの方が大きかったと思います。誰にも命令されないということは、お客様に対する責任をすべて松田個人が負うことができます。確かに独立は厳しい道ですが、フェアだとも思います。お客様が大会社ではなく、松田のほうがトクだと思えば発注する。そうでなければ発注しない。それだけの世界ですからね。
―――エンジニア出身の松田社長ですが、そのマーケティング力はどうやって鍛えたんですか?
松田:確かにエンジニアには「技術オタク」のような人もいますが、私の場合は、母親が親戚の商売を手伝っていたこともあって、自然と商売人の気質が身に付いていたのかもしれません。だからパッケージソフトの販売を始めた当初、自分で秋葉原のパソコンショップの店頭に立ち、「特打」などの街頭デモができたんだと思います。街頭デモを実施するとお客様が喜んでくれるし、売り上げが上がるとお店も喜びます。相手に喜んでもらおうという気持ちが強かったのでしょう。
―――読者の多くは会社員ですが、将来に備え今のうちにやっておくべきことなどありませんか?
松田:どこに行っても役立つ“汎用性”のあるスキルを身に付けるべきだと思います。私の場合は英語がそうなんですが、学生時代に覚えた英語が、起業してから海外のパッケージソフトを導入するときなどに役立っています。
でもそれだけじゃダメです。そういう強みを複数組み合わせ、オリジナリティーを発揮しなければなりません。英語だけができる人なら大勢います。私の場合は英語だけではなく、技術でもトップレベルになれるよう努力しました。英語が得意な人は技術が苦手だったり、技術が得意な人はその逆だったりしますが、両方できることでかなり貴重な人材になれました。さらに私は技術の中でも大型汎用機とパソコンの両方をマスターしています。強みが2つだけならまだライバルがいるかもしれませんが、3つ極めると世界でも稀な存在になれるのです。 ―――最後に、これから転職や起業など「人生の転機」を意識する読者に、アドバイスをお願いいたします。
松田:やはり自分の「売り」を作ってゆくことが大切です。それは当社が店頭で販売する商品のように、自分の“パッケージ”を考えるとよく分かります。例えば、パッケージに「TOEIC800点突破!」と印刷すると「TOEIC700点」よりも、たくさんの商品が並べられている陳列棚のなかでより目立つでしょう。さらに「経理もできます!」などと書けば、より商品としての価値が高まるはず。そう考えれば「性格」だってパッケージに書き込むネタになります。買い手がほしくなるスキルを磨き、その組み合わせを考えながら、自分の価値を高めてください。
プロフィール
1965年兵庫県生まれ。89年大阪府立大学工学部卒業、同年日本IBM入社。93年システム・コンサルタントとして独立。96年株式会社ソース(現ソースネクスト)設立。
<会社概要>
ボブ・サップ、藤原紀香などを起用した派手プロモーションや、「ソフトウェアのコモディティ化戦略」のもと販売価格1980円で新商品を次々とリリース、ソフトウェア業界に新風を吹き込んでいる。代表的な商品にタイピングソフト「特打」、パソコン加速ソフト「驚速」などがある。
「特打」 タイピングをゲーム感覚で学ぶコンセプトが受けて、同社を代表する大ヒットソフトになった。
平均年齢29.5歳という若さ溢れる社内。仕事に年次は関係ないという考えから、中途入社組・新卒者問わず、大きな仕事を任せている。
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