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―――新卒で入社したNTT時代、どんな仕事を経験しましたか? |
西野:1年目は現場に配属されました。横浜の電話局で窓口業務や料金督促を担当し、中華街の中国人や本牧のアメリカ人など、さまざまな人間との接し方を身に付けました。次に大手メーカー向けのシステムコンサルティングを担当しました。私はこの仕事がやりたくてNTTに入社したようなものです。しかし、足を棒にしてかけずりまわるタイプではなく、ひょうひょうと、好きな仕事に好きなように取り組んでいました。
その後ニューヨークにMBA(経営学修士)留学して、現地のインターネットビジネス熱に強く影響されました。帰国後は、シリコンバレーのベンチャー企業への投資や、ジョイントベンチャー設立などに携わっています。華やかなキャリアにみえるかもしれませんが、投資事業では資金が回収できなかったこともあり、かなり痛い目にも遭いました。意外と有名企業同士の合弁事業が不成功に終わったなど、反面教師として学ぶ点も多かったような気がします。 |
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―――NTT在籍中にネットエイジを設立したことが、西野社長にとっての大きな転機になりました。その経緯を教えてください。 |
西野:当時、NTTが人材派遣会社と合弁会社を作り、パソコン教室のネットワーク化を進めていました。そのリサーチを進める中で出会ったのが、学生を集め「パソコン家庭教師事業」を展開していた西川潔氏(現・ネットエイジ社長)でした。その姿を見て、自分で事業を運営する面白さに目覚めた私は、西川氏と意気投合して「これからインターネットの時代がやってくる。いろいろな事業を起こせる会社を作ろう」とネットエイジの設立に参加しました。土日やアフター5に無報酬で会社を手伝い、アメリカのネットビジネスに関する調査レポートを書いたり、新規ビジネスのプランを作成したりしました。休日はありませんでしたが、私にとっては“趣味”で土日を過ごすようなものだったのです。 |
―――どうしてアマゾンに入社したのでしょうか? |
西野:ネットエイジに「ネット上の書店を開きたい」という相談がありました。我々は「それならアメリカのアマゾンを日本に持ってきたら面白い」と思って、その創業者ジェフ・ベソス氏にメールを送ろうと提案したんです。すると意外にも本人から返信があり、シアトルの本社でプレゼンすることになりました。ジェフは我々の提案を気に入ったらしく、我々がアマゾン本社に1年駐在してこの話を進めることになったのです。 |
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―――その1年間、どんな仕事をしましたか? |
西野:Amazon.co.jp立ち上げに向けて、ビジネスプランの策定を進めていました。アマゾン単独での参入、日本企業との合弁会社設立など、複数の案を検討していましたが、調べを進めるほど仕入れや物流面が不安になり、「日本企業と組んだ方がよいのでは」と自分の中では合弁案が有力になっていました。合弁案を最終検討する会議で、私がそのメリット・デメリットを説明すると、すかさずジェフが「お前の力だけじゃ立ち上げられないのか?」と聞くんです。組織人としては「できません」なんて言えません(笑)。つい「できる」と答えてしまったのですが、それが転機になりました。結局我々はそのまま独力で突き進み、仕入れも物流体制も確立させたのですから―――。このとき毅然としたリーダーのあり方も、ジェフから学んだような気がします。 |
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―――西野社長はNTTとアマゾンを合わせると、10年以上会社員を経験しています。その経験から読者に「会社員時代を有益に過ごす方法」をアドバイスしていただけませんか?
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西野:会社のカンバンを使って、最大限できることに挑戦してほしい。大胆な発想を繰り返し、同時に徹底的に考え抜くことによって、人は大きく成長できます。自分が失敗したぐらいじゃ会社はつぶれません。わざと失敗したわけでもない限りクビにはならないだろうし、万が一クビになったとしても、これだけ雇用が流動化しているのですから、不安になる必要なんてありません。「会社員というのは不自由なもの」と思い込んでいる人が多いかもしれませんが、実は会社員だからこそできることだってたくさんあるのです。むしろ起業した後の方が、制限されることは多いですね。 |