―――会社設立からわずか2年7カ月、しかも最低資本金規制特例制度(いわゆる1円起業)を活用した会社として、初の株式上場を果たした渡邉社長ですが、どのように独立の準備を進めたのですか?
渡邉:「成功する人は会社設立以前に、売り上げが見えている」という話を聞き、会社を辞める半年前から準備を始めました。個人で航空会社のマイレージサービスを比較するサイトを立ち上げた経験があったので、旅行やパソコンの購入といった、身近なサービスを比較する「総合比較サイト」のアイデアを考え、サイトを全面的に作り変えました。最初に作ったのは「引越しの見積りサービス」。確実にニーズがあって、手っ取り早く作れたからです(笑)。簡単なものから始め、増やせるところまで増やす計画でした。
最初はページビューも少なかったのですが、月額1万円程度の安い広告枠を設け、気軽に広告を出して頂けるようにしました。最初の月に20万円ぐらいの広告が入り、経費分ぐらいはカバーできました。それと無駄な経費を使わないようにしました。収入を最大化させて、支出を最小限に留める。ビジネスはこれに尽きると思います。リスクを取ることが、カッコいいことではないんです。「できるところからやれ、取れるところから取れ」と言いたいですね。 ―――前職はベンチャーキャピタルだったそうですが、入社時期はITバブルの少し前でしたね。
渡邉:研修期間を経て投資先を開拓し始めたのが99年、ちょうどITバブルが盛り上がってきた時期でした。会社から「ITに行け」と指示があり、私の初案件もIT関連でした。かなりの額を投資しましたが、3カ月で「失敗した!」と気づいたんです。
本来、ベンチャー投資はビジネスモデル以前に、社長の信用度で判断すべきです。ところが勢いで投資していた部分もあり、そこを見抜けませんでした。投資先の社長は、少しお金が集ったり、マスコミに出たとたん、人間が変わってしまいました。本業に集中しようとせず、無駄なお金を使い、社員もまったく定着しない。私はすぐそれに気づき、会社経由で注意しましたが、相手は聞く耳すら持っていませんでした。 結局、その会社は他社に吸収されました。私はメーカーやメディカル関連の投資先を開拓し、トータルで見れば会社に貢献できたと思います。初案件の反省を踏まえ、社長の資質を慎重に見極めました。特に重視したのはウソを付かない人物であること。足元の業績を聞いても、答えがあやふやだったり、ごまかす人は避けました。確かに投資は「将来」に期待するのですが、足元をきちんと語れないようでは、将来の話も信用できません。 ―――「比較.com」の原型も、その時期にお作りになったとか。
渡邉:99年頃、マイレージを比較する個人サイトを、ページをすべて自作して立ち上げました。海外の何もない場所を旅するのが趣味で、インターネットに興味があったからです。最初は頻繁に更新していたのですが、ITバブルが崩壊した2001年後半になると、次第にやる気もなくなってきて、2002年にはほとんど更新しなくなりました。ITバブルと共に私の情熱も尽きていったのです(笑)
―――なぜ独立に踏み切ったのですか?
渡邉:社会人丸5年となり、1つの区切りだと思ったんです。独立を考えた理由は2つあります。1つは、これまで投資をしているうちに、自分でビジネスをやりたくなってきたこと。もう1つは、仕事で多くの経営者とお会いしましたが、新卒で入社して社会人経験も乏しい私には、なかなか経営者にアドバイスする機会がありませんでした。だったら自分で経験するしかない、その方が学ぶことが多いと思い決意しました。
―――会社員時代に身に付けたことって何ですか?
渡邉:ベンチャーキャピタルの仕事は、投資した会社がすべて上場するなどまずあり得ません。この経験から「100%の成功は絶対にない」と考えるようになりました。社員をマネジメントしていても、100%自分の思い通りになると思ったら、結果的に仕事が上手く行きません。むしろ成功の確率が高まるよう、自分で調べたり、物事を検証してゆくことのほうが有効だと思います。
ITバブル後の「逆風の時期」を経験して、執念深さや強靭な精神力が身に付きました。確かに多くの会社が消えましたが、生き残って成功している会社も多い。私も逆風の時期に、個人サイトをクローズして、「hikaku.com」のドメインも手放していたら、今の自分はなかったはず。決してあきらめず、腰を据えて取り組むことが大切です。 ―――キャリアアップを目指す読者にアドバイスして頂けませんか?
渡邉:長く会社員生活を続けていると、どうしても視野が狭くなりがちです。そんな風に過ごすサラリーマン人生が本当に自分に向いているか、定期的に見直す必要があると思います。年に2回ぐらいは何もない国を旅して、自分自身を振り返ってみることをお勧めします。そして日本に帰国したときに、そのままの人生でいいか、それとも違った人生を選択すべきか真剣に考えてほしい。
転職活動中の人に言いたいのは、仕事の「やりがい」と会社の「規模・ブランド」は、反比例の関係にあるということです。大企業などでは、やりたい仕事に就ける確率は、どうしても低くなります。仕事のやりがいを追求する人は、会社のブランドにこだわらず、社長の話をじっくり聞き、ベストな転職先を選んで下さい。 プロフィール
1971年福島県生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、CSKベンチャーキャピタル入社。2003年8月比較.com株式会社設立(資本金250万円)。設立2年7カ月目の06年3月、同社は東証マザーズ上場を果たす。「最低資本金規制特例制度(1円起業)」を活用した会社で、初となる株式上場だった。
現在のロゴは創業時に社長自ら制作したもの。「素人っぽい」といわれるそうだが、すっかりサイトの顔として定着している。
本社風景。約20名のスタッフが活躍している。上場企業だからといって、浮ついたところはない。無駄のないオフィスだといえる。
バックナンバー
vol.33 高橋健志氏 (株式会社ベアーズ)
vol.32 宇佐神慎氏 (株式会社翔栄クリエイト) vol.31 宮崎陽子氏 (株式会社ギャレリアコレクション) vol.30 吉原直樹氏 (株式会社アルテ サロン ホールディングス) vol.29 小松武司氏 (株式会社サティスファクトリーインターナショナル) vol.28 本庄恵子氏 (株式会社ヒューマンビークル) vol.27 梅澤英行氏 (株式会社ティー・ユー・ビーアソシエイツ) vol.26 永井好明氏 (アールプロジェクト株式会社) vol.25 車田直昭氏 (ドットコモディティ株式会社) vol.24 岩本眞二氏 (スタイライフ株式会社) vol.23 兼元謙任氏 (株式会社オウケイウェイヴ) vol.22 小室淑恵氏 (株式会社ワーク・ライフバランス) vol.21 渡邉哲男氏 (比較.com株式会社) vol.20 吉田英治氏 (株式会社フレッシュテック) vol.19 松田憲幸氏 (ソースネクスト株式会社) vol.18 加藤義博氏 (株式会社アイケイコーポレーション)
vol.17 森正文氏 (株式会社一休)
vol.16 橋本雅治氏 (株式会社イデアインターナショナル) vol.15 田口弘氏 (株式会社エムアウト) vol.14 小方功氏 (株式会社ラクーン) vol.13 西野伸一郎氏 (株式会社富士山マガジンサービス) vol.12 安田佳生氏 (株式会社ワイキューブ) vol.11 森下篤史氏 (株式会社テンポスバスターズ) vol.10 遠山正道氏 (株式会社スマイルズ) vol.09 宋文洲氏 (ソフトブレーン株式会社) vol.08 高橋透氏 (株式会社ラストリゾート) vol.07 南場智子氏 (株式会社ディー・エヌ・エー) vol.06 出張勝也氏 (株式会社オデッセイコミュニケーションズ) vol.04 経沢香保子氏 (株式会社トレンダーズ) vol.03 菊川暁氏 (株式会社ガーラ) vol.02 松田公太氏 (フードエックス・グローブ株式会社) vol.01 穐田誉輝氏 (株式会社カカクコム) |