―――オフィスデザインの会社だけに、素晴しい本社オフィスですね。オフィスデザインを始めたきっかけを教えてください。
宇佐神:オフィスデザインに事業を絞り込む以前の当社は、OA機器やオフィス家具の販売などを手がける、オフィス関連の「なんでも屋」でした。ところが営業で多くの会社を訪問するうちに、「このオフィスだと潰れそうだ」と思っていた会社が実際に倒産したり、逆に「このオフィスはいいな」と思った会社が急成長することに気づき、働く環境の重要性について深く考えるようになったのです。
これまで日本では、オフィスにお金を掛けない風潮がありました。しかし、時代は大きく変化し、働き方も変化しているのですから、当然オフィスも変わる必要があると思いました。「これからの時代に必要とされる」という信念から、オフィスデザインへの特化を決断しました。もちろん一時的に仕事が減るという不安もありましたが、決断しなければ何も変わらない、特化するしかないと自分で決めて、オフィスデザインに運命を賭けました。 ―――とはいえ、OA機器やオフィス家具の販売とオフィスデザインの仕事は、ノウハウも性格もまったく異なるビジネスですよね。
宇佐神:確かにそうです。しかも私が小学生のとき、唯一「2」を取った科目が図工でした(笑)。しかし、前職で会社が何度も倒産しそうになったにも関わらず、かなり長い期間持ちこたえた経験から、「何とかなる」と楽観的に考えていました。
オフィスデザインを始めた当初は、最初の10案件ぐらいは、私が自分でデザインしていました。3000万円規模の大型案件を受注したときには、初めてCADに触れ、操作を覚えながら自分で図面を引いたものです。受注から引渡しまでわずか1カ月しかなく、職人の手配から施工図の作成まで、すべて自分でやらねばなりませんでした。昼間は現場に出て、夜は図面を書き、引き渡し当日に完成。やらなければいけない環境に追い込まれれば、案外できてしまうものです。仕上げに狂いなどもなく、お客様からも「すごい!」と評判は上々。思いがあれば通じるんですね。 ―――起業する以前は、ビジネスホンやOA機器の営業をなさっていたそうですね。新人時代の宇佐神社長はどんな営業でしたか?
宇佐神:最初は全然売れない営業でした。正直言って辛かったですね。入社初日にカタログを渡され、すぐに飛び込み営業をやらされましたが、どこを回れといった指示もなく、毎日朝8時半から夜9時まで、1日平均100件、最高で300件訪問しました。それでも契約が取れず、「自分は一生契約が取れないまま終わるのではないか」と、不安に思ったのを覚えています。
お客様の入口まで行くと立ちすくんでしまうので、少し離れたところからダッシュして、その勢いで受付に駆け込むといった方法も試しました。それでも何度か訪問するうちに、少数ですが相手になってくれるお客様が現れ始めました。世間話をしたり、笑顔で話をする程度でしたが、お客様と楽しく話をしたイメージを思い出しながら訪問するといった工夫をしていました。
そうした試行錯誤の日々が2カ月ぐらい続いたでしょうか。ある日、大手企業の営業所を訪ねると、たまたま買い替えを検討中で、その日のうちに契約が取れたんです。思いがけない初受注に、「受注は取れるんだ!」とホッとしました。以来、「下手な鉄砲数打ちゃ当たる。飛び込みも持続すればどうにかなる」と考えるようになり、自信が付いたというか、心持ちが変わりました。 それからは飛び込みで築き上げた顧客リストのおかげで、コンスタントに受注が取れるようになります。入社3カ月目に営業でトップに立つと、退社までトップの座を維持しました。人間の能力はそれほど変わらないと思いますが、イメージの持ち方次第で結果に大きな違いが出るのではないでしょうか。 ―――営業するときに工夫していることは?
宇佐神:まず絶対に売り込もうとはしません。常にお客様の立場で、お客様のメリットを第一に考えます。売ろう売ろうとすると相手は身構えてしまいますが、相手のために何か役に立とうとしていれば、相手も自分に何かしてあげたいと思うもの。理想を言えばお客様に「ところであなたは何屋さんだっけ?」と聞かれるぐらいがちょうどいいんです。
しかし一方では頭の中で、今月の目標数字などを意識します。今月残りどれぐらいの数字を積み上げなければならないのか、それを実現するには何をすべきか、頭をフル回転させて考えます。この2つのバランスが大切なんです。 ―――ところでどうして起業したのですか?
宇佐神:自分から望んだのではなく、しかたがなく起業することになったのです。私が仕入先を開拓して事業領域を拡大させ、1人で月間2000万円もの粗利を稼いでいた一方、社長が一気に13もの営業所を開設してしまったのです。営業が2人しかいないのに、3階建ての高額なオフィスを借るなど浪費を重ね、売り上げもほとんど上がっていませんでした。結局、会社は資金繰りに行き詰まり、仕入先への支払いが約3億円も滞っていました。
このままでは肝心の仕入れができなくなってしまうので、私が会社を立ち上げ、私の会社を経由して仕入れて営業を続け、仕入先へ返済することにしました。仕入先を開拓したのは自分だという責任感から、親戚からお金を借りて、仕入先への支払いをしたこともあります。 ―――大変なことになってしまいましたね。
宇佐神:おかげで40歳になる頃には、身も心もボロボロでした。全身の関節が痛くなり、毎晩40度近い熱が出ました。突然、心臓の鼓動が早くなるなど体のコントロールが利かなくなり、一時は死んでしまうと思ったことすらあります。休みもなく朝6時から深夜2時まで働いていたことや、3億円を返済するというプレッシャーが原因でした。
ところが借金の返済に目処が付き、前職との縁が切れると、ものすごく楽になりました。肉体的にも限界を超えたこの経験で、自分のキャパシティーは確実に大きくなったと思います。給料をもらえず、会社に泊まり込む生活だったので、働く側の気持ちや働く環境が大切だと考えるようになりました。この経験も今の仕事につながっているのかもしれません。 ―――最後に読者にアドバイスをお願いします。
宇佐神:たとえ不満があったとしても、会社に在籍しているうちには、その会社のためにベストを尽くしてください。それが結果的に自分のためにもなるはずです。また、転職を考えているならば、その会社で一生やっていこうという気持ちで転職しましょう。そうでなければ中途半端のままで終わるだけ。その仕事がお客様や社会のためになるか、真剣に考えて決断してください。
プロフィール
1959年宮城県生まれ。父親の転勤により茨城県で育ち、茨城大学工学部に入学。同校を3年で中退し、茨城キリスト教大学に編入して卒業。その後、牧師を目指し東京基督教短期大学に入学。同校を1年で退学して、87年、27歳でビジネスフォン販売会社に入社。97年翔栄システム(現翔栄クリエイト)設立。当初はOA機器、オフィス家具などを販売していたが、2001年からオフィスデザインに注力する。
<会社概要>
社員のモチベーション向上、企業ブランディングによる、顧客の業績アップへの貢献を目指すオフィスデザイン会社。顧客に徹底したインタビューや調査を行い、顧客の強みを引き立たせるオフィスを設計する。コンサルティングを全面に打ち出しており、複数社によるコンペには参加しない方針を貫く。
麻布の本社
1F、2Fが吹き抜けになっており、中心部に大きな木が植えられている。開放感と落ち着きをほどよくミックスした、とてもオフィスとは思えない空間が広がる。 東京・麻布のオフィスからは、ライトアップされた東京タワーを間近で眺めることができる。
バックナンバー
vol.33 高橋健志氏 (株式会社ベアーズ)
vol.32 宇佐神慎氏 (株式会社翔栄クリエイト) vol.31 宮崎陽子氏 (株式会社ギャレリアコレクション) vol.30 吉原直樹氏 (株式会社アルテ サロン ホールディングス) vol.29 小松武司氏 (株式会社サティスファクトリーインターナショナル) vol.28 本庄恵子氏 (株式会社ヒューマンビークル) vol.27 梅澤英行氏 (株式会社ティー・ユー・ビーアソシエイツ) vol.26 永井好明氏 (アールプロジェクト株式会社) vol.25 車田直昭氏 (ドットコモディティ株式会社) vol.24 岩本眞二氏 (スタイライフ株式会社) vol.23 兼元謙任氏 (株式会社オウケイウェイヴ) vol.22 小室淑恵氏 (株式会社ワーク・ライフバランス) vol.21 渡邉哲男氏 (比較.com株式会社) vol.20 吉田英治氏 (株式会社フレッシュテック) vol.19 松田憲幸氏 (ソースネクスト株式会社) vol.18 加藤義博氏 (株式会社アイケイコーポレーション)
vol.17 森正文氏 (株式会社一休)
vol.16 橋本雅治氏 (株式会社イデアインターナショナル) vol.15 田口弘氏 (株式会社エムアウト) vol.14 小方功氏 (株式会社ラクーン) vol.13 西野伸一郎氏 (株式会社富士山マガジンサービス) vol.12 安田佳生氏 (株式会社ワイキューブ) vol.11 森下篤史氏 (株式会社テンポスバスターズ) vol.10 遠山正道氏 (株式会社スマイルズ) vol.09 宋文洲氏 (ソフトブレーン株式会社) vol.08 高橋透氏 (株式会社ラストリゾート) vol.07 南場智子氏 (株式会社ディー・エヌ・エー) vol.06 出張勝也氏 (株式会社オデッセイコミュニケーションズ) vol.04 経沢香保子氏 (株式会社トレンダーズ) vol.03 菊川暁氏 (株式会社ガーラ) vol.02 松田公太氏 (フードエックス・グローブ株式会社) vol.01 穐田誉輝氏 (株式会社カカクコム) |