―――学校を卒業してすぐ、旅行会社に入社したそうですね。
本庄:東京に本社がある小さな旅行会社に入社しました。札幌の支店に配属されましたが、業績は振るわず、支店が閉鎖されるという噂もありました。しかもたった4人の支店なのに、私が入社して半年で所長は退職し、営業担当者は東京へ異動。残されたのは新人の女の子2人だけという、まったくあり得ないような状況でした。
一時は辞めることも考えたのですが、負けず嫌いな私は、逆に「2人で採算が取れるまで頑張って、本社を見返してやろう!」という気持ちになり、事務が得意な同僚に事務所の仕事を任せ、私は営業として外に出ました。すると偶然かもしれませんが、大きな仕事が入ったり、まずまずの結果を残せたのです。 そのうち社長が様子を見に来てくれました。実は支店を閉鎖するためにやって来たらしいのですが、予想以上に頑張っている姿を見て、私たちを認めてくれました。社長の滞在中、営業に同行して頂きました。ケーキを持って挨拶に行っただけで、翌日からポンポン大きな仕事が入ったんです。私は社長の営業力に感動し、今度は社長の近くで仕事ができる東京本社への異動を希望するようになりました。それから私は毎日のように、異動をお願いするファックスや手紙を本社に送り、同時に本社の上司や先輩にも根回し。そして半年後、ようやく本社への異動が認められたのです。 ―――本社ではどんな仕事をしましたか?
本庄:旅行雑誌に掲載する東南アジアツアーの企画です。しかし、現実はなかなか厳しいものでした。とにかく競合する旅行会社の数が多く、旅行の中身も値段もほぼ横並び。しかも広告予算が少なく目立たないのです。そこでツアーのネーミングで勝負することにしました。
主にシンガポール行きのツアーを企画していたのですが、ゴミ1つない美しい都市景観は女性に好まれると考え、女性が喜びそうなエステなどを組み合わせたプランを作成しました。そうした企画をネーミングに盛り込むと、たくさんの反響が寄せられツアーは大成功。参加者の数がまとまったときには、添乗員として同行する機会が与えられ、「タダで海外旅行に行ける」と喜んでいたものです。 ―――仕事が上手く回ってたのに、会社が倒産してしまったそうですね。
本庄:北海道に帰ることも考えましたが、地元の親や友人、彼などと別れ、相当の決意で東京に来たのですから、一旗挙げないうちには帰るわけにはいきません。旅行会社のアルバイトを見つけ、事務の仕事をしながら、東京に留まることにしました。
そこで私は初めて「派遣」という仕組みを知ります。たまたま同僚の女性が派遣社員で、仲良くなって話を聞くと、なんと時給がアルバイトの倍以上だというんです。驚いた私はすぐ派遣会社に登録に行き、その場で紹介された会社がキャブステーションでした。 ―――派遣として入って、正社員になっています。どうして社員になれたのですか?
本庄:最初は派遣でしたから、自分から率先して仕事を進めたわけではありません。与えられた仕事を迅速かつ丁寧に仕上げ、それが徐々に評価され、次第に社員と同じ仕事を任されるようになったのです。若い社員が多い会社だったので、男女問わず年下には負けたくないという気持ちもありました。
基本的な業務は電話応対や端末入力などでしたが、あっという間に旅行会社との折衝や地方出張など、朝の掃除当番以外はすべて、社員と同じ仕事をしました。朝の掃除に参加するだけで待遇が良くなるならばと、派遣として入って約2年後に社員になっています。 ―――その後どういった経緯で社長になったのですか?
本庄:当社はキャブステーションの社内ベンチャーですが、観光タクシー・バスをホームページで予約する事業の発案者は別にいて、当初、私はプロジェクトメンバーにも入っていませんでした。当時、私は現場をとりまとめる統括マネージャーを務めていて、ある日プロジェクトチームから「現場の意見も聞きたい」といわれ会議に出席しました。するといつの間にか会議の司会をしたり、とりまとめ役を務めるようになり―――。上司に上手く乗せられたという感じです(笑)
代表就任を打診されたのは突然でした。「エッ」という感じて、しかも夜遅くに言われ、翌朝回答するようにとのこと。考える余裕もなく、「やります」と言うしかありませんでしたね(笑)。代表がどんなことをする仕事なのかも分からなかったのですが、私はあまり深く考えないタイプ。「なるようになる。悩んでいるより、行動した方が早い」と判断し、引き受けることにしました。
この決断ができたのも、入社以来お世話になっていた上司のおかげだと思います。彼女は私が派遣で入社してから、ずっと私を引っ張ってくれた人で、いつも「早く川を渡ってこっちにおいで」と言っていました。彼女は、子供を産んでも1週間で会社に復帰して働いていて、それまで「子供を産んで働くなんて信じられない」と考えていた私に身をもって、やればできるという姿を示してくれました。 確かに代表になったことでリスクや責任は大きくなっています。しかし、思い切って川を渡ったことで、何にも代えがたい充実感が得られたのもまた事実。以来、「どこかで一線を越えなくては、面白い仕事は得られない」が、私のモットーです。 ―――人材採用や教育にも長く携わっているそうですね。
本庄:新人の導入研修は、ほとんど私が一手に引き受けていました。みんな忙しいので、誰もやりたがらない仕事だったのですが、引き受けるうちにハマりました(笑)。叱ったらその倍褒めるという教育の基本を守りつつ、「プライベートが充実していないと仕事で力を発揮できない」という考えから、ちょっと悩み事がありそうだったら、すぐに声をかけるといった気配りを心がけています。それは代表になってからのマネジメントにも生きているのではないでしょうか。
採用担当者としては、「面接では自分を飾らず、ありのままで臨んでほしい」とアドバイスしたいですね。これは自分自身の実体験ですが、ある旅行会社の面接を受けたときに、「あなたは自分1人で旅行に行けますか?」と聞かれました。本心では「できれば1人でなんて行きたくない。旅行の楽しさは誰かと分かち合いたい」と思っていたのですが、つい「ハイ、行けます! なぜなら―――」と、心にもないことを答えてしまいました。すると無理をしているのが面接官にも伝わり、結局、いい結果は得られなかった経験があります。これから中途採用の面接を受ける人も多いかと思いますが、ぜひ面接では「ありのままの自分」をアピールしてください。 プロフィール
1973年7月北海道生まれ。94年3月北海道ビジネス専門学院卒業。同年4月世界観光サービス入社、札幌の支店に配属される。翌年東京本社に異動。東南アジアツアーの企画、添乗に従事。97年会社倒産のため退職。98年4月よりキャブステーションで派遣社員として就業。約2年後同社正社員となる。2002年2月、同社の社内ベンチャーとしてヒューマンビークルを設立、代表取締役就任。
<会社概要>
貸切タクシー・バスの予約サイト「たびの足」を運営。全国のタクシー・バス会社約350社と提携し、約2万コースの観光プランを提案している。バスを1台貸し切り、移動しながら飲食を楽しむ「パーティーバス」など、独自の企画でファンを増やす。月間約700件もの申し込みを受け付けている。
「たびの足」ホームページ ある一定人数以上になるとコストが安くなる、プランの柔軟性が高いといった観光タクシー・バスのメリットを生かした企画が提案されている。
「たびの広場」旅をテーマにしたコミュニティーサイト。マイページやフォトアルバム、口コミ情報などの機能があり、参加者同士の交流の場となっている。
バックナンバー
vol.33 高橋健志氏 (株式会社ベアーズ)
vol.32 宇佐神慎氏 (株式会社翔栄クリエイト) vol.31 宮崎陽子氏 (株式会社ギャレリアコレクション) vol.30 吉原直樹氏 (株式会社アルテ サロン ホールディングス) vol.29 小松武司氏 (株式会社サティスファクトリーインターナショナル) vol.28 本庄恵子氏 (株式会社ヒューマンビークル) vol.27 梅澤英行氏 (株式会社ティー・ユー・ビーアソシエイツ) vol.26 永井好明氏 (アールプロジェクト株式会社) vol.25 車田直昭氏 (ドットコモディティ株式会社) vol.24 岩本眞二氏 (スタイライフ株式会社) vol.23 兼元謙任氏 (株式会社オウケイウェイヴ) vol.22 小室淑恵氏 (株式会社ワーク・ライフバランス) vol.21 渡邉哲男氏 (比較.com株式会社) vol.20 吉田英治氏 (株式会社フレッシュテック) vol.19 松田憲幸氏 (ソースネクスト株式会社) vol.18 加藤義博氏 (株式会社アイケイコーポレーション)
vol.17 森正文氏 (株式会社一休)
vol.16 橋本雅治氏 (株式会社イデアインターナショナル) vol.15 田口弘氏 (株式会社エムアウト) vol.14 小方功氏 (株式会社ラクーン) vol.13 西野伸一郎氏 (株式会社富士山マガジンサービス) vol.12 安田佳生氏 (株式会社ワイキューブ) vol.11 森下篤史氏 (株式会社テンポスバスターズ) vol.10 遠山正道氏 (株式会社スマイルズ) vol.09 宋文洲氏 (ソフトブレーン株式会社) vol.08 高橋透氏 (株式会社ラストリゾート) vol.07 南場智子氏 (株式会社ディー・エヌ・エー) vol.06 出張勝也氏 (株式会社オデッセイコミュニケーションズ) vol.04 経沢香保子氏 (株式会社トレンダーズ) vol.03 菊川暁氏 (株式会社ガーラ) vol.02 松田公太氏 (フードエックス・グローブ株式会社) vol.01 穐田誉輝氏 (株式会社カカクコム) |